「好きなことを仕事にしよう」という言葉を、一度は聞いたことがあると思う。本屋に行けばそういうタイトルの本が並んでいるし、SNSでも「好きなことで生きていく」という話はよく目にする。
でも実際のところ、好きなことを仕事にすれば幸せになれるのだろうか。私自身が経験したことや、周りの人たちを見てきて感じることを、できるだけ正直に書いてみたいと思う。
「好きなことを仕事にする」が理想とされる理由
好きなことを仕事にすることが理想とされるのには、いくつかの理由がある。
まず、モチベーションが続きやすいこと。好きなことなら、辛いときでも「でもこれが好きだから」という気持ちが踏ん張る力になる。嫌いな仕事を義務感だけで続けるより、精神的な消耗が少ないとされている。
次に、努力が苦にならないこと。好きなことは自然と深く追求したくなるので、気づけば人より詳しくなっていたり、スキルが上がっていたりする。「続けること自体が楽しい」という状態は、仕事においてかなり強い。
そして、仕事に意味を感じやすいこと。好きなことであれば、なぜこれをやっているのかという問いに自分なりの答えを持ちやすい。意味を感じられる仕事は、疲れても戻ってこれる力になる。
でも現実は、そう単純じゃない
「好き」の種類によって全然違う
「好き」には種類がある。趣味として楽しむ「好き」と、仕事として取り組める「好き」は、必ずしも同じではない。
たとえば、音楽が好きな人が音楽関係の仕事に就いたとして、毎日締め切りに追われながら好きでもないジャンルの曲を作り続けることになったとしたら、「好きなことを仕事にした」とは言いにくい。趣味で気ままに演奏していたときの「好き」とは、全然違う体験になる。
「好き」を仕事にするとき、自分が好きなのは何なのかをもう少し細かく分解しておくことが大切だ。結果を出すことが好きなのか、プロセスが好きなのか、人と関わることが好きなのか。その「好きの核心」が仕事の中で生きているかどうかが、続けられるかどうかを左右する。
好きなことが「義務」になる瞬間がある
好きなことを仕事にすると、避けられない壁がある。それは、好きなことが「やらなければならないこと」に変わる瞬間だ。
趣味でやっていたときは、気分が乗らない日は休めた。でも仕事になると、気分が乗らなくても締め切りがある。クライアントの要望に合わせなければならない。結果を出さなければお金にならない。
この変化に耐えられるかどうかが、「好きなことを仕事にする」の現実的な分かれ道だと思う。好きだったものが「しんどいもの」に変わることは珍しくない。
お金の問題は思った以上に大きい
好きなことを仕事にしても、収入が安定しなければ生活は成り立たない。「好きなことだから多少収入が低くてもいい」と思っていても、実際に生活が苦しくなってくると、好きなことへの向き合い方が変わってくる。
お金のために好きなことを続けなければならない状態になったとき、それはもう「好きなことを仕事にした幸せな状態」とは言えなくなっていることが多い。
では、どう考えればいいのか
「好きなことを仕事に」より「嫌いじゃないことを仕事に」
あえてハードルを下げた言い方をするなら、「好きなことを仕事にする」より「嫌いじゃないことを仕事にする」方が、長期的には幸せに近いかもしれない。
強烈に好きなことは、仕事にせず趣味として持ち続ける選択肢もある。仕事にしないからこそ、純粋に楽しみ続けられるものもある。
仕事の「どの部分」が好きかを明確にする
仕事全体が好きである必要はない。営業が好き、人に教えることが好き、ものを作ることが好き、データを分析することが好き。仕事の中の「好きな部分」が一定割合含まれているだけで、続けやすさがかなり変わる。
「好きなことを仕事にしたい」と思ったとき、仕事全体ではなく「仕事のどの部分が好きなのか」を具体的に考えてみることが大切だ。
「好き」は育てることもできる
最初から強く好きでなくても、続けていくうちに好きになることもある。うまくなると楽しくなる、認められると嬉しくなる、深く知ると面白くなる。「好き」は最初から持っているものだけじゃなく、仕事を通じて育てていくものでもある。
「今は別に好きじゃないけど、嫌いでもない」という仕事が、数年後に「これが自分の仕事だ」と感じられるものに変わっていることは、珍しくない。
まとめ
「好きなことを仕事にする」は、必ずしも間違いではない。でも、それが全員にとっての正解でもない。
大切なのは、自分の「好き」の種類を理解すること、好きなことが義務になったときに耐えられるかを考えること、そして好きなことと生活の安定をどうバランスさせるかを現実的に考えることだと思う。
「好きなことを仕事にしたい」と思ったとき、一歩踏み出す前にこうした問いを自分に向けてみることが、後悔のない選択につながるはずだ。